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名古屋高等裁判所 昭和50年(行コ)1号 判決

愛知県一宮市大和町毛受字中屋敷七六番地

控訴人

浅井甚助

右訴訟代理人弁護士

石川康之

愛知県一宮市明治通二の四番地

被控訴人

一宮税務署長

藤井友一

右指定代理人

岸本隆男

佐野武人

吉沢専一

市川朋生

大西信之

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人の昭和三九年分所得税につき、同四〇年九月一八日付で更正し、同年一二月二二日付異議決定により一部取消された総所得金額を一八一万七一九〇円とする更正処分のうち八四万八二五〇円をこえる部分を取消す。訴訟費用は、第一、二審共に被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の主張)

更正処分は、国税通則法第二四条の法意からすれば、税務署長が同条所定の調査をなし、これを基礎として始めてなし得るものと解すべきである。従って、更正処分取消訴訟における更正処分の適法性は、更正処分時における調査を基礎とし、これによってのみ判断さるべきであるから、税務署長は、右調査の具体的内容について主張立証の責任を負い、これが判明しないときは、更正処分は調査なくしてなされたものとみなされ、違法と認定さるべきである。

これを本件について言えば、被控訴人は、本件更正処分時以後に蒐集した調査資料によって、本件更正処分の適法性を主張立証せんとしているが、仮に右資料により、更正処分が客観的には適法であることが立証されたとしても、更正処分時における調査内容については何ら主張立証しないから、前述の理由により、本件更正処分は、調査せずになされたものとして違法というべきである。

(証拠関係)

控訴人は、当審において甲第六ないし第一一号証を提出し、当審における証人浅井茂子、同浅井和子の各証言、控訴本人尋問の結果を採用し、後記乙号各証の成立はすべて認める、と述べた。

被控訴人は、当審において乙第四〇号証の一、二を提出し、甲第一〇、第一一号証の成立は不知、その余の前記甲号各証の成立は認める、と述べた。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、失当として棄却すべきものと認めるが、その理由は次のとおり付加訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(一)  原判決三七枚目裏末行から、同三八枚目表一行目にかけて「税務署長がいかなる場合にかかる調査をなすべきかは法律に特に定めるところがなく、また、」とあるを削除し、同三八枚目表二行目中「他の法律によるも」の次に「青色申告の場合を除き」と挿入し、同三行目中「何らその手続が定められていないから」の次に「本件のように白色申告の場合は(本件申告が白色申告であることは原審証人川口茂、同鷹羽常夫の各証言により認められる。)、」と挿入する。

(二)  原判決三九枚目表一行目から二行目にかけて「質問する一方」とあるを削除し「質問したが的確な説明回答を得られなかったこと、そこで被控訴人は、」と改める。

同三行目中「仕入金額を把握し、」の次に「把握できない仕入金額については判明している仕入金額から推計し、かつ、」と挿入する。

(三)  原判決四〇枚目表四行目の末尾に次のとおり付加する。

「控訴人は、更正処分の適法性は、更正処分時における調査を基礎とし、これによってのみ判断さるべきであるから、被控訴人の主張立証は、更正処分時における調査内容に限定される趣旨の主張をするけれども、課税処分取消訴訟における当該処分の違法性の有無は、要するに、処分の要件が客観的に具備されているかどうか、別言すれば、課税庁の認定した課税標準等又は税額等が、関係法規に照らし、総額として客観的に正当な数額であるかどうかによって判断さるべきものであり、従って、課税庁は、処分時点における調査資料に限定されることなく、処分時以降に蒐集した資料をもって当該処分の適法性を立証することは許されるというべきである。

それゆえ、本件において、被控訴人が、本件更正処分時における調査の内容を具体的に主張立証しなくとも、そのことから、直ちに本件更正処分が違法になるという筋合は毛頭存しない。原判決の説示する処分理由の追加が許されるのも右と同じ理由に基づくのである。

従って、控訴人の右主張はもとより採用できない。」

(四)  原判決四〇枚目裏四行目から同四一枚目表二行目までを全部削除し、次のとおり改める。

「そこで被控訴人主張の推計の相当性について考えるに、調査により判明した特定期間の仕入額を算定し、これにより年間の総仕入額を推計する方法は、基礎となる特定期間の仕入額が正確であり、かつ、係争年度において、年間を通じ仕入額が格別変動していない事情が認められる場合は、合理的な推計方法というべきであり、また売買差益率により総売上額を算定するいわゆる比率法は、右差益率算定の過程(基礎資料の選定、資料調査の方法、右資料についての平均化作作業等)が相当であれば合理的な推計方法というべきである。以上の説示に反する控訴人の主張は採用しない。」

(五)  原判決四二枚目裏末行中「の証言」の次に「成立に争いのない乙第四〇号証の一、二、原審証人浅井三次の証言」と挿入し、同四三枚目表二行目から三行目にかけて「同年九月五日開店」とあるを「同年九月下旬開店」と訂正し、その次に「(但し営業許可年月日は、魚介類につき同年九月二四日、食肉類につき同年一〇月一四日)」と挿入し、同五行目中「前年七月ころの開店」の次に「(控訴人店舗との距離約一キロメートル)」と挿入し、同六行目中「従って」の次に「アサヒヤ開店前の同年一月ないし八月中」と挿入し、同九行目中「は措信できない。」を削除し、「当審における控訴人本人尋問の結果はいずれも措信できず、当審証人浅井茂子、同浅井和子の各証言も右認定を左右するに足りない。なお、原審証人浅井三次の証言、当審における控訴人本人尋問の結果、右尋問の結果により成立を認めうる甲第一〇号証によれば、係争年度中に、毛受地区にはマルキ商店と称する水産加工品の小売商が営業していたことが窺知できないでもないが、控訴人の全立証によるも、右商店の規模、顧客数、取引額等が明らかではなく、控訴人と競業関係に立つ程の有力な商店であったと認めることは困難である。」と改める。

(六)  原判決四三枚目裏一〇行目中「近在の」以下同四四枚目表一行目から六行目までを全部削除し、次のとおり改める。

「(一)そのころ一宮青果連合会所属金丸市場の組合員の資格を取得し、訴外一宮青果からの直接仕入が可能になったこと、(二)訴外一宮水産が訴外一宮青果と同一場所にあり、場所的に便利であったこと、(三)近在の尾西セルフサービスセンターに対抗する必要があったこと、以上の理由に基づくものであると主張するので、考えるに、原審証人山田丈夫、同宮崎善市の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、昭和三九年九月に訴外一宮青果市場の組合員となり、訴外一宮青果から直接仕入ができるようになったこと、訴外一宮水産は、訴外一宮青果と同一場所にあること、及び昭和三九年一月ないし八月の間に控訴人は、訴外宮崎商店から青果物を、訴外三井商店から水産加工品を仕入れていたことが認められる。

しかしながら、右各商店からの仕入額が、控訴人主張のとおりであったか否かについては、控訴人の右主張にそう右各証人の証言部分、これら証言により成立を認めうる甲第二、第四号証の各記載、原審証人浅井三次の証言部分、原審における控訴人本人尋問の結果部分は、たやすく信用し難く、他に右主張を認めるに足りる的確な証拠は存しない。

思うに、被控訴人の前記推計は、控訴人が本件更正処分時に控訴人の主張を裏づける的確な証拠資料を提出しなかったためであり、この推計を覆えすに足りる反証とは、取引先の元帳、売掛帳、伝票等その正確性に信がおけるものでなければならないというべきところ、前掲証人宮崎善市の証言によれば、甲第二号証(証明書)中、控訴人と訴外宮崎商店の取引額月額一万円の記載は経営者である訴外宮崎善市が記憶に基づいて作成したもので、同人は、帳簿等は備付けていなかったことが認められ、また前掲証人山田丈夫の証言によれば、甲第四号証(証明書)中控訴人と訴外三井商店の取引額月額約一万五〇〇〇円ないし二万円の記載の裏付けとなる売掛帳は現存しないことが認められるから、右甲号各証の正確性は、たやすく信をおき難い。

従って、前記推計の結果からすると、控訴人の宮崎商店ないし三井商店からの仕入額は、控訴人主張額を相当上廻っていると推認できるし、更には、昭和三九年一月から八月までの間は、一宮市内の他の卸小売業者からの仕入も相当程度あった(右山田証人の証言によれば、一宮市内には他の卸小売業者も相当数存することが認められる。)と推認することも可能である。」

(七)  原判決四四枚目裏三行目中「購入額に見合う程度の額である」を削除し、「購入額に比し、著しい差はない」と改める。

(八)  原判決四六枚目裏八行目中「信できない。」の次に、「当審証人浅井茂子、同浅井和子の各証言も右認定を左右するに足りない。」と挿入する。

(九)  原判決四七枚目裏一行目始めから、同三行目中「争いないから、」までを削除し、次のとおり改める。

「金額については、一二月分を除いて被控訴人において把握できず、一二月分は、他の月と比較し、多少仕入額が増加するものと見て除外し、前記一カ月当り仕入金額を以って右各月の仕入金額とすると、」と改める。

(一〇)  原判決四九枚目裏五行目の末尾に次のとおり付加する。

「昭和四一年度においては、昭和三九年九月に開店した「アサヒヤ」のほかに、昭和四〇年に開店した「八百国」等の同業者がいたことは、前記のとおりであるから、昭和三九年度における控訴人の市場占有率は、昭和四一年度より大であったと考えられることからしても、右推計は控え目なものということができる。」

(一一)  原判決五〇枚目表二行目の末尾に次のとおり付加する。

「成立に争いのない甲第六ないし第九号証、当審における控訴人本人尋問の結果、右尋問の結果により成立を認めうる甲第一一号証も以上の認定(被控訴人の各推計についての合理性の存在)を左右するに足りない。

(一二)  原判決五四枚目裏三行目中「各証言」の次に、「原審における控訴人本人尋問の結果」を挿入する。

(一三)  原判決五六枚目表二行目から、同裏四行目までを全部削除し、次のとおり改める。

「所得税法上事業者の支出するいわゆる接待交際費が、昭和三七年法第四四号による改正後の同法第九条一項四号、第一〇条二項にいう必要経費に当るか否かは、当該接待交際費支出の相手方、支出の理由等から見て、もっぱら事業の遂行上の必要に基づくと認められるか否かにより決せられるべきである。

これを本件について見ると、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は年間一二万円(月一万円)の大半を訴外宮崎商店の経営者宮崎善市との飲食費に支出し、その余は近所の顧客に対する慶弔費に支出したと供述しているけれども、右金員の支出を裏づける資料は何ら存しないこと、月一万円という端数のない均一金額は、経費としての性質上不自然であること、訴外宮崎商店との間の係争年度中の取引額は、控訴人主張額より相当上廻っていると推認できることは前記のとおりであるが、控訴人の全立証を以ってしても、訴外宮崎に対し月約一万円弱の接待交際費を支出しなければならない事業遂行上の必要性が明らかでないこと、近所の顧客に対する慶弔費は、その性質上家事上の費用と区分できないこと、以上の諸点からすれば、控訴人の右供述部分はたやすく信用し難く、他に控訴人の主張を維持するに足りる証拠は存しない。」

(一四)  原判決五六枚目裏六行中「借入金利子」の次に「を含む金利として」を挿入し、同八行目中「原告主張の建築資金は」を削除し、「控訴人主張の借入金は殆んど」と改める。

二  よって、本件更正処分は、適法であるから、その取消を求める控訴人の本訴請求は失当として棄却さるべきであり、右と結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 松本武 裁判官 菅本宣太郎)

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